message – 【2023-24 autumn-winter collection “brine”】







brine



肌を刺す 痺れるような寒さが 本格的になる季節   

海が凍る


遠浅の穏やかな湾が 厚い氷でびっしりと覆われる


その海を覆う ひび割れた 少しだけ不安定な氷の上を歩くのが 好きだ


氷の上に残っている 鹿や狐 鳥たちの足跡や

氷の隙間から覗く 吸い込まれそうな空間に 心惹かれる


その隙間から覗く海は いつも見ている浅瀬の海のものとは 全く違った印象を与えてくれる

深海まで続いているような 少しだけ怖い 翠青の神秘的な世界



実際にいつも同じように見えている海水は この季節には 少し違うものになるという


氷の形成や集合時に海水に含まれる塩分が排出されるので 高塩分で高密度の水になるそうだ

そしてその水が 海洋の大循環に重要な影響を与えているらしい



普段何気なくみているものが 実は変化していて

それが 地球全体に影響する 大きな変化へと続いているということに 心踊らされる





suzuki takayuki


今回のタイトルは、〝 brine 〟です。
〝 飽和食塩水または、飽和に近い食塩水 〟の意味で、
単語の由来は海洋学で用いられた海水が凍る際に産出・排出される高濃度の塩水から来ています。 


私が行き来する北海道の東端では、冬になると、浅瀬の海が凍ります。
中部地方の内陸で育った私にとって、それは衝撃的で、全く想像出来なかった事でした。

もちろん、川や湖なども凍り、氷の上を歩けるのですが、
海のそれは、他の場所とは違う、何か少し怖いような神秘的な魅力があるのです。

私が最も好きな場所の一つである、その遠浅の海は、とても穏やかで、
その為、水平線の近くまで、びっしりと氷に覆われます。

昨日まで、波が押し寄せる普通の浜辺だった風景が、
次の日には、全く違ったものになり、別世界へと変化してしまう。

それは、何だか現実味がなくて、不思議な感覚に襲われます。

遠浅の海ですので、潮が引いた時には、
氷は海底についてしまい、氷の上を歩くことができます。
数日前まで海だったところを歩くことができると云うのは、また特別な感覚です。

氷の隙間から覗く海は、実際にはすぐに底なのですが、
影が落ち、濃い青翠色になったそれは、まるで深海まで続いているようにも見え、
神秘的で、少しだけ怖く、私を強く惹き付けます。

氷と、そこから覗く海と、そしてチラチラと雪が舞う曇り空と、、、
モノトーンの世界の中で、吸い込まれるような深い青翠の海が印象的な、現実味のない世界。
遠くから聞こえる波の音と、鳥の鳴き声と、
そして氷の上を歩く自分の足音しかしない、不思議な時間。

ここ何シーズンか、どちらかというと温かみがある秋冬の服たちを作ってきましたが、
この神秘的な、寒々しい美しい世界の感動をお伝えしたいと思い、
今回は、美しい青翠とグレーの世界をイメージしました。

また、氷の隙間から覗く海水は、
実はいつも見ている海だったものとは少し違っていると聞き、
一層、その魅力に囚われてしまいました。

凍るのは水分であり、氷の中にはほとんど塩分は含まれない。
凍った海水の分の塩分は、海へと排出されるため、
そのあたりの海水は、通常のものよりも少し塩分濃度の高いものになるそうなのです。

そして、さらにその塩分濃度の濃い海水が生まれるということが、
地球規模の海洋の循環、海流の発生に大きな影響を与えているらしいということでした。

自分の本当に近いところで起こっている身近な出来事が、
とても大きな、世界を取り巻く現象に影響を与えている。

その事が、私にとってはとても印象的でした。
それは、世界と自分の関係性や距離感にも、何かを考えるきっかけになったのです。

自分が日々行なっている些細なことが、
意識もしないような大きなものへと繋がっていくような、、、。

そんな様々な想いを込めて、今回の服たちをつくりました。


今回の色味は、

その神秘的な海の色を、brine blue として、透明度の高い、彩やかな深い青翠を表現しました。

他にも、氷や雪が舞う曇り空の色などをイメージして、いくつかのグレーの色をつくっています。

草原の枯れ草や枝に降りた霜をイメージした、frost grey
海や湖から湧き上がる、水蒸気や霧を表現した、pale mist
薄曇りの空の色である、青味がかった、sky grey
氷に落ちる影の色からインスピレーションを受けた、ice grey や silver grey
重たく厚い雪雲の、steel grey
夕日を映した、紫がかった雲の色のような、rose grey

とても狭い範囲の色幅の中ですが、
美しいモノトーンの世界を彩るたくさんのグレーを見ていただきたいです。

そのほかにも、walnutやcamel、ecru beige など、
茶系の色展開もありますので、是非お楽しみください。


素材としては、秋冬シーズンですが麻素材も多く使っています。
麻は実際には保温力が高いものですので、
起毛などを施したり、仕上げに優しく叩きほぐす工程を入れるなどをして、特別なものに仕上げております。

もちろん、いつものコットンやシルク、ウールなども、
様々な織り方で作り上げた特徴的なものをご準備しました。

キュプラやレーヨンなどの再生繊維も多く使っております。
単体で使うだけではなく、他の素材を組み合わせて、しなやかさと上品な光沢感を加えています。

それぞれに違った風合いに仕上がり、美しい表情が見られますので、
是非ご注目いただけましたら有り難いです。

また、今回のニットは、柔らかなカシミヤ100%の糸を使って編み上げ、
その後さらに柔らかさを引き出すために加工を入れた特別なものを準備しました。

元々の糸の質感を損なわないように、強い薬品を使うのでは無く、
洗いと乾燥のバランスを絶妙にコントロールすることによってカシミヤの柔らかな毛足を引き出し、
その後、手作業でブラッシングをして整えた贅沢な1枚です。

英国羊毛糸を使った工芸品のような貴重な手編みのセーターもございます。

それ以外にも、特徴的なものとしましては、シルク/レーヨンのエレガントなベルベット素材、
リネン/コットンのクラフト感のある同じくベルベット素材などもあります。

素材や色の振り幅を持たせ、いつも以上に生地の分量や、
細かな組み合わせのバランスを意識しながら仕上げました。

言葉を失うほど美しいモノトーンの風景と吸い込まれるような青翠の世界、
その感動から、今シーズンのコレクションが生まれました。

どうか、ご覧くださいませ。


スズキタカユキ

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