message – 【2024-25 autumn-winter collection ” snow , shade , shadow ”】






snow , shade , shadow




森の中の 凍った川の縁を歩く 

聞こえてくるのは 雪を踏み締める自分の足音と 

時折 遠くから聞こえてくる 鹿の鳴き声くらい 


木々の間から差し込んでくる光が眩しく 

真っ白い光に 包まれているような感覚になる 


いつも見ていた風景が 全く違う見え方をしていて 

目に見えるものは ほとんどが無彩色で 

雪と 陰と 影の モノトーンの世界が広がっている 


水墨画のような 白と黒とグレーの景色の中で
質感とシルエットが いつもより強く感じられる 豊かな世界が広がる 

色が無いという とても贅沢な世界 




何か が無いということを こんなにも大切に思うことがあるなんて 




何かが無くなることで 新しく見えるものがあった 

それは 今まで無かったものではなく 

大切なものは すでに近くにあって 

それに気づいていなかった だけだったのだろう 

たくさんの回り道をして 

足りないということで 足ることを知って 


本当に大切なものが 少しずつ近づいてくるのを感じている 



自分には 何ができるのだろう 

自分は 何を大切に思っているのだろう 






suzuki takayuki


今回のタイトルは、“ snow,shade, shadow ” です。

雪に覆われた季節の、雪と陰と影の、モノトーンの世界をイメージしたコレクションになっています。

前回の春夏シーズンは、〝 the flowering meadow  〟と題した、

花咲く草原、人の手の入っていない花が咲き乱れる原生草原をイメージした、カラフルなコレクションでした。

今までにないくらい沢山の色を使った、彩やかな作品たちでした。

今まで、あまり色を使ってこなかったからこと、色を使うことによっての発見があり、

逆に、色を使ったからこそ、「色をあまり使わなかった」ということを強く意識するキッカケになりました。

今回は、凍った川と川辺に生える樹木、そして氷と雪に映った影、の世界のイメージです。

モノトーンの世界なのですが、そこには白から黒の間に、無数のグレーが存在していて、

青みがかったもの、赤みが強いもの、黄色みを感じるものなど細かな違いがあり、

とても豊かな世界が広がっていました。

その中から、私が美しいと感じた魅力的な28種類の色を使用しています。

分かりやすいカラフルさではないのですが、狭い範囲内の色の違いを感じていただけるとありがたいです。


私は、服飾を学校で学んだことが無いので、全てが手探りでした。

素材や、構造、縫製などの知識も、最初はかなり少なかった上に、

いきなり現場に放り込まれてしまったので、

勉強はしつつも、自分が知っている知識の中で、

その一つ一つをどこまで深く掘り下げるかということがとても大切でした。

その当時は、そこしか勝負できるところが無かったのだと思います。

とても大変でしたし、今思えば、もっともっと別なやり方があったとは思いますが、

良い経験を積ませていただけたと思っています。


そして、その考え方が、今にも生かされていると思いっています。


今回の“ snow,shade, shadow ”では、使う色をしぼり込むことによって、

その狭い範囲内で、どう自分が感じているイメージを形にするかということに挑戦しました。

それは、服飾を始めた当初の、自分が出来る少ないところを、どう追求して可能性を広げ、

「何かが足りない世界 」ではなく、

「より豊かで魅力的な世界」に作り上げるかという試行錯誤の日々を思い出させるものでした。

そういう意味で、自分にとっても、とても特別なコレクションになったと思っています。


その、狭い範囲の中での魅力的な色達は、

寒々しい光沢感も感じられる、朝日理輝く霜よのうな、少し青翠みの淡いグレーである、frosty silver

ニュートラルで透明感のある、輝石のムーンストーンのような非常に美しい青みのグレー の、moon stone 

真珠のような、ほんのりピンクがかった味わい深い淡いグレージュ の、pearl grey 

曇り空の色のような、ニュートラルな中間色のベージュグレー である、cloudy grey 

グレーがかった味わい深い茶色、フランス語で「モグラ」の意 の、taupe 

燻んだ銅の色の様な、赤みのある濃色のグレーの、dark bronze

鉛のように暗く、ほんのり青みがかった灰色である、lead grey

粘板岩のような深い無機質な灰色で、ニュートラル印象の濃色である、slate grey

雁の羽の色のような、美しい緑みの濃いグレー、goose grey

ワタリガラスの羽のような、深く少し青みがかった黒に近いグレー の、raven’s grey 

ランプの煤のような、ほんのり茶色がかった黒色である、lamp black などです。


これらはまだ、その一部ですが、

美しいモノトーンの世界を豊かに彩るたくさんのグレーを見ていただきたいです。

そのほかにも、amberや、autumn leaf など、

オレンジ、茶系の色展開もありますので、是非お楽しみください。

今回は色味の振り幅をかなり絞っていますので、

その分、素材感やシルエットが引き立つコレクションになっています。

ゆったりと作っているものでも、非常に構築的に形作っていたりですとか、

ギャザーやタックの技法を複雑に組み合わせたり、切り替え毎に生地の広がりと動きを調整し、

生地の分量感を緻密に吟味してますので、それらを是非見ていただきたいです。

素材としては、少し派手なものも使っています。

モヘア素材の毛足の長い生地ですとか、太畝の特徴的なコーディロイ素材なども取り入れています。

ブルゾンや、コートなどのアイテムに使用しておりますので、是非見ていただきたいです。


また、秋冬シーズンですが今回も麻素材も多く使っています。

特に今回は、ウール素材と交織し、保温力を高めつつも、

加工を施し、皺感や、少しアンティーク感のある風合いを表現した、

特別なオリジナル生地も使っております。

もちろん、いつものコットンやシルク、ウールなども、

様々な織り方で作り上げた特徴的なものをご準備しました。

特に、素材感を残しつつも適度な張りを持たせたコットンオーガンジー素材の

ティアードスカートなどはとてもお勧めです。

キュプラやレーヨンなどの再生繊維も多く使っております。
単体で使うだけではなく、シルクやコットンなど他の素材を組み合わせて、

しなやかさと上品な光沢感を加えています。

発色もとても良いので、エレガントで上品な仕上がりになっています。


そして、今回のニットは、柔らかなアルパカの糸を使って編み上げています。

非常に軽くて柔らかく仕上がっていますので、ご注目ください。

それ以外にも、いつもの英国羊毛糸を使った工芸品のような貴重な手編みのセーターもございます。

今回は、テーマに合わせた雪の結晶柄を描いた、とても思い入れの深いものになります。



使用する色を、狭い範囲内の色味に絞り込むことにより、

いつも以上に、素材や質感、生地の分量やシルエットの細かな組み合わせのバランスを

意識しながら仕上げました。

何かを制限することによって、いつも以上に強く色々なものの存在を意識できることがある。

それは、自分にとって大切な、服作りを始めた頃の気持ちを思い出させるものであり、

今の自分、これからの自分、そして関わってくださっている沢山の方々の事を

考えていく上でとても重要な事でした。



そんな思い入れのあるコレクションです。




どうか、ご覧くださいませ。





スズキタカユキ

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