
leaf litter
冬が訪れる前の 木々の葉が落ちて
雪が降り積もるまでの間の ほんの少しの季節に とても惹かれています
色付いた葉に覆われていた 華やかな木々の姿が
あっという間に 枝だけの寂しい姿へと様変わりして
その 色とりどりの落ち葉達が 複雑に積もり重なり合った地表の様子に
強く魅きつけられています
それらが 少しずつ朽ちていき
無数の微生物によって分解され、やがて「土」という一つのものとなっていく姿
それぞれの特徴を残しつつも、一つのものに溶け合っていく過程の美しい姿
それは、それぞれの存在が融合し、境界が曖昧になって1つのものになっていく過程なのか、
それとも、どこまで行っても個が存在しつつも、それらが寄り添って共生体へと進んでいく姿なのか
どちらにしても その姿がとても魅力的に感じられ
退廃的な儚い美しさと同時に、次の生命の誕生へとつながる輪廻の力強い美しさを感じてしまうのです
個々の複雑さを感じさせながらも、全体としては調和の中にあり、
繊細さの中に どこか 暖かさと力強さを感じる
そんな服たちを作りたいと思いました
suzuki takayuki
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今回のテーマは “leaf litter” です。
少し生物学的な言葉ではあるのですが、落ち葉が降り積もった状態のことです。
年々 秋が短くなって来てしまっているように感じていて
夏が終わったと思ったら、すぐに寒くなってきてあっという間に冬が始まってしまうイメージですが、
その、冬が始まるまでの少しの瞬間に、昔から強く惹きつけられています。
それは、雪が降った後のように、劇的な風景の様変わりに心踊らされているからかもしれません。
紅葉の色付いた葉に覆われていた木々が、あっという間に枝だけの寂しい姿へと変化して、
その分、その美しい葉が地面に降り積り、今までの地表とはまた違った複雑な姿を見せてくれます。
そして、それが少しずつ朽ちて行き、分解され、一つのものになっていく過程にさらに惹かれていくのです。
それは、分解されることによって存在が融合し、境界が曖昧になっていく過程なのか、
それとも、個の存在を残しつつも、それらが寄り添って共生体へと変化していく姿なのかは分かりませんが、
何かそういった、〝もの〟が変容していく姿に美しさを感じ、心を揺さぶられています。
私が、素材の経年変化や、布が動くときの美しさに魅せられている事にも、何か通じているかもしれません。
自分は、普遍的なものを求めている反面、変化していく事へもどこか憧れているだと思います。
服は、人との距離がとても近いものなので、精神的にも作用するものだと思っています。
逆に言えば、個人の感情や、何か見えない社会全体が持つ雰囲気みたいなものに、
とても影響されているものだと感じています。
だからこそ、それを作る側は、今の社会、少し先の未来の状況に対して、
何か想いを巡らせていくことが大切だと考えています。
ここ数シーズン、suzuki takayuki の秋冬シーズンのテーマは、少し寒々しいというか、
厳しい冬の寒さの中にある、少しシャープで緊張感のある美しさをイメージして来ました。
実は、自分が数年前に想像していた今の社会は、もう少しだけ安定している状態で、
人の心にも、今よりは安堵感や開放感が表れているだろうと考えていました。
その状態の中、少しシャープで強さのある服を着て頂くことで
一歩前へ進んでいくことの、後押しを出来ればと思っていたのです。
ただ実際は、自分が思ったよりも、まだ不安定な状況が続いているという印象で、
もう少し、安心感や優しさが必要だと感じました。
その為、今回のテーマを、“ leaf litter ”として、落ち葉の持つ温かみのある色味や、
大地が持つ、包み込むような暖かさや、柔らかさを表現できればと考えました。
また、“ leaf litter ”は、次の生命の誕生へとつながる温床でもあるので、
何かそういった、これからへの希望につながっていくイメージを感じていただければと考えたのです。
そういった印象を感じて頂くために、今回は素材の風合いにもこだわっています。
ふっくらとした暖かみのある質感を表現するため、今までのものよりも強い加工を施しています。
生地や製品に洗いを何度か掛け、熱処理をして縮絨加工を施したものや、
縮率の違う糸を引き揃えた後、大きく縮めて歪みを持たせ、空気を含ませたもの、
経緯に違う成分の糸を掛け、洗い加工を繰り返すことで膨らみと柔らかさを表現したものなどです。
色に関しても、様々な種類の落ち葉に見立てた28種類ものブラウンカラーや、
熟した木の実の落ち着いたトーンの赤色など、暖かみのある色を多く使っています。
ブラウン色は、比較的スタンダードな色の一つではありますが、
微妙な色のトーンや濃さで、似合う似合わないが分かれる色でもありますので、
自分に合った1色を見つけて頂きたいです。
積もり重なった落ち葉をイメージして、
少しずつトーンの違うブラウンで全身をコーディネートしていただくのもお勧めです。
シルエットにも少し変化を持たせています。
いつものエレガントさや上品さの印象は残しつつも、
少しだけ柔らかい印象になるように、縦横の比率を調整したり、
首周りや肩の位置のバランスを変化させています。
また、新しいアイテムや素材にも少し挑戦しています。
suzuki takayuki で初めてダウン素材のアイテムを作りました。
スポーツテイストや、アウトドアテイストになり過ぎず、
素材の風合いがある、柔らかな印象のダウンアイテムを作りたいと以前から考えていて、
心地よい生地に包まれているような感覚を感じていただきたいため、
生地の重さや、量感とダウン量のバランス、
表生地の組織と風合い、立体的で美しいシルエットなどにこだわり、
何度も修正を加えながら吟味し、何とか思い描いていたアイテムに仕上がりました。
是非、一度羽織ってみてください。
サイズや色でも、かなり雰囲気が変わりますので、理想の1枚を見つけてみてください。
様々な実験を試み、多様な複雑さを残しつつも、全体としては調和が取れ、統一感があり、
人の気持ちに少しでも何か残すことが出来ればと願って、柔らかで暖かみのある印象に仕上げた、
思い入れ深いコレクションです。
どうか、ご覧くださいませ。
スズキタカユキ